エピソード

バブル時代にニセ医師の結婚詐欺師に翻弄された不動産取引

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時は日本経済がバブル崩壊前の昭和60年頃、私が不動産売買の仲介営業をしていた頃に起こった事件です。

まるで映画か小説のような話で、「本当ですか?」と思われるかもしれませんが、本当なのです。

その当時はバブルのため、札幌市内の建売住宅でもごく稀に1億円近い建売住宅が売りに出されていました。

今回の舞台となる建売住宅は隣合わせで2棟建築されていて、建築した会社が販売も兼ねていました。

こんな物件が売れるのかと思っていましたが、案の定なかなか売却に至りませんでした。

そのうちに建築会社の販売では限界を感じたのか、私の勤務する会社に販売の依頼がきたのです。

1.2棟購入したい買主が現れる

宣伝活動してもなかなか契約に結び付かない中、数カ月が過ぎたある日、会社に1本の電話が入りました。

電話の主は東京に住むAさんで、自分が住む住宅と親を住まわせる住宅を購入したいので「札幌に見に行きます」というのです。

最初は半信半疑でしたが、2棟購入していただけるなら2億円近くの大取引になります。

こんなビッグチャンスはなかなか巡ってはきません。

案内する日を決め、当日に向けて物件の清掃やセールスポイントをまとめたパンフレットを作成するなど準備を進めました。

高級住宅

2.医師の男性と婚約者の看護師を案内

さて、いよいよ案内当日、お越しになったのは一組の男女でした。

Aさんは40歳前半くらいで、色の黒い清水健太郎(ちょっと古いのですが)似の精悍なイケメンです。

それに比べて女性のBさんは普通の方でした。

話を伺うと二人はご夫婦ではなく、結婚予定の婚約者でした。

会社の車で物件を案内する道すがらお話を伺うと、Aさんは東京都内の病院に勤務する医師で、Bさんは看護師の方でした。

結婚したら札幌に住むための夫婦の住宅と、奥様のご両親の住宅を購入したいというご希望を持たれています。

現地に着き、新築住宅2棟を案内するうちに気に入ってもらい、両方とも購入したいと言っていただきました。

あまりに簡単に決めていただいたので、うれしいのですが本当に購入するのかなと思った記憶があります。

購入申込書に住所、氏名等を記入してもらい、手付金の額や契約日、引渡日も決めていただきました。

早速、会社に購入の経緯を報告すると、購入のお礼に食事のおもてなしをするように指示されました。

3.すすきので2次会までお付き合い

お二人とは会食の待ち合わせ場所を決めて、一度ホテルに送り私は会社に戻りました。

会社の上司も上機嫌で、社内でも2億円近くの契約に驚きの声が上がっていました。

約束の会食までの時間に仕事を進めていると、たまたま私の担当している他の物件が契約になることになりました。

正に運が付いている時というのは、こうゆう事をいうのかと思いました。

さて、お二人との会食は、待ち合わせしたすすきのにある郷土料理店で和やかに過ごしました。

奥様になるBさんには、脳に病気のある妹Cさんが地方にいるため、Aさんが札幌に来たら北大病院に妹を入院させると話していました。

その話しぶりは真実味を帯びていて、妹を心配する気づかいが感じられました。

しかしAさんは、私が今まで契約してきた医師の方と何となく雰囲気が違うのです。

今まで見たことのないタイプで、医師としての言動に落着きが感じられませんでした。

刺身

しばらくして食事も終わり、お酒も回ってきたので、「明日もお忙しいでしょうから、この辺でお開きにしましょうか?」とお尋ねすると、「金子さん、もう一軒行きましょうよ」というではありませんか。

2億円近くの物件を購入いいただけるお客様なので、断るわけにもいきません。

「それではスナックでも行きましょうか」と言ってなじみの店にお連れしました。

その店でも2時間くらいいたと思いますが、その間に本当に医師なのかという疑問を解消するために、酔ったふりをして質問してみました。

いくつか質問したと思いますが、一番記憶に残っているのが自動車電話です。

その当時は今のような携帯電話がなかったのですが、自動車に電話を取り付ける自動車電話が話題になっていた頃だと思います。

私はAさんに「外出先で患者さんが急変したと連絡が入ったら、すぐに病院に駆けつけるのですか?」と尋ねました。

すると彼は、「自分の車には自動車電話とファックスが付いているので、患者の心電図などを送ってもらい、それを見て指示を出します」と言うのです。

自信満々の顔で説明され、なんとなく納得してしまいました。

とにかく私の質問には、迷うことなく回答していたと思います。

午前0時も過ぎたので2軒目のスナックで別れ、帰路につきました。

4.手付金が振り込まれずAの周辺を調査

それから数日後、契約手付金が振り込まれる予定日になっても入金がありません。

翌日に確認しても入金がないので、確認の電話をするとつながりません。

さすがに頭の中は、「ひょっとして騙されたのか?」と浮かびました。

それからは、会社の指示で探偵のような仕事になりました。

はてなマーク

購入申込書に書かれている住所が東京だったので、東京の営業所に依頼してその住所にAさんが住んでいるか確認してもらいました。

調査してもらった結果は、その住所にAさんが住んでいないことが判明しました。

また、たまたま二人が旅行で使っていた観光会社を聞いていたので、事情を説明して協力を仰ぎました。

今ほど個人情報がうるさくない時代だったので、旅行費用は女性がクレジットカードで支払ったことを教えてもらいました。

医師なのに住所は嘘で、旅行費用を婚約者に支払わせるのは不自然です。

「どう考えてもおかしい」と思いました。

しかし、相手と話をしないと事情がわからず手の打ちようがありません。

ふとBさんが話していた病気の妹Cさんが住む道南の町が脳裏に浮かびました。

郷土料理店で妹さんの話を伺った時に地名を覚えていたのです。

すぐにNTTの営業所に行ってその町の電話帳をもらい、Bさんの苗字の家に片っ端から電話してみました。

20軒くらい電話したでしょうか、姉が看護師で病気の妹もいるBさんの実家をつきとめました。

事情を説明して看護師のBさんの電話番号を教えてもらいました。

この時の話では、Bさんの実家では婚約者の話もご存じでした。

固定電話

5.ニセ医師から会社に振込の電話が入る

すぐにBさんに電話すると、手付金のことは聞いていないというので、Aの電話がつながらず教えてもらった住所も該当しないと説明しました。

すると、BさんもAの住んでいる住所や勤務先の病院も知らないというではありませんか。

どうして勤務先が分からないのか聞くと、毎日違う病院で勤務するので教えてもらえないということでした。

ここまでくるとニセ医師に間違いないと思うようになりました。

しかも、Bさんが婚約者のAの住所や勤務先の病院を知らないのは不自然だと思いました。

さらにBさんは本物の看護師なので、看護師をだますにはかなりの医学知識が必要ではないでしょうか。

そう考えると医師を目指して挫折した人間か、医師免許を何かの理由で剥奪された人間だと思います。

どちらにしてもニセ医師ですが、まだ確証がないのでBさんには強く言えません。

しかし、Aが医師を装ってBさんに近づいたのは結婚詐欺のためだと思うので、さりげなく怪しい雰囲気は伝えたつもりです。

そうこうしているうちに、Aから会社にいる私に15時過ぎに電話が入りました。

「今、富士銀行(現在のみずほ銀行)の支店にいて手付金の振込手続きをしているので、明日には手付金を振り込みます」と言うではありませんか。

こう言われると「本当に医師だったのか!!」と思ってしまいますよね。

しかし、翌日に振り込みはなく、その後は電話も一切ありませんでした。

なんのために電話してきたのか分かりませんが、「愉快犯のような人間なのか?」とも思いました。

困った

6.落胆の日々

結局、2億円近くの取引はなくなり、売主の建築会社には謝罪に伺い、社内ではしばらく気まずい空気が漂っていました。

さらに、立て替えしていた郷土料理店とスナックの飲食代のうち、郷土料理店の飲食代は会社の指示なので会社に請求しましたが、スナックの飲食代はばつが悪くて請求できませんでした。

騙された上にスナックの飲食代まで自腹ですから、踏んだり蹴ったりとはこのことです。

そんな事件があったことも忘れかけていた翌年の春、会社にいた私に女性から一本の電話が入りました。

7.病気の妹まで騙したニセ医師

聞き覚えのある苗字だなと思って電話に出ると、病気の妹Cさんでした。

話を聞くと春に北大病院で手術をするため、入院手続きに来たが予約の手続きが入っていないと言うのです。

どうしてなのか事情を聞かれても、私も何も聞いていませんとしか言えませんでした。

Cさんのガッカリした声が耳に残っています。

どうして私に電話をくれたのか分かりませんが、ニセ医師Aやお姉さんのBさんと連絡が取れないので、藁をも掴む気持ちで連絡してきたのかもしれません。

しかし、私がCさんの実家にお電話したのは1度だけで、直接Cさんとお話したことはありません。

それなのによく私の電話番号を記録していたなと驚きました。

ニセ医師Aの言葉を信じたCさんを責められませんが、お姉さんのBさんと連絡を取っていなかったのでしょうか。

お姉さんのBさんが妹を騙すとも思えません。

札幌に来た後も、BさんはAを医師と疑わずお付き合いしていたのでしょうか。

それにしても、命に係わるかもしれない病気の妹を騙すAは人間のくずです。

そんなAに、私は腹が立って仕方がありませんでした。

その後、Cさんからの連絡は一切なく後味の悪い幕切れになってしまいました。

私が関わった不動産取引の中で、生涯忘れることのできない取引でした。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

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